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by orataki01

書評 「巨象も踊る」  ルー・ガスナー著

この本の原典の英語タイトルは「Who Says Elephants Cant's Dance?」。つまり「誰が巨象は踊れないなんて言ったんだい?」ということになる。英語タイトルのほうが負けず嫌いなガスナー氏の気質を表していて面白い。この本は「丸ごと一冊IBM」なのであるが沈没寸前のIBMをいかにして再建したかという経営書である。

IT業界(その当時はコンピューター業界と呼ばれていた)にさほど詳しくないガスナー氏がいかにして巨象を躍らせたかが克明に記されている。コンピューター業界のことがある程度分かっていない人にとっては言葉や考え方を理解するのに苦労する箇所が何箇所があるとは思うが、全体的にそれほど専門的でない記述に安堵して読み進めることができた。

「世界のIBM」という企業が巨大であるということは分かっているつもりであったがその昔、ここまで官僚的で大家族的(家父長的)な企業であるとは知らなかった。家父長的な企業風土というのは創業者のトーマス・ワトソン氏の理念によるものであるが、話をそこまで昔に遡らせる必要は無い。その当時、理想とされてきた思想が現在「変化の時代」にあってどう不適合を起こしてきたかを理解すれば事足りる。

組織についての原則論をいうと組織が大きくなると官僚的組織形態にするのが合理的な判断であり、何も官僚的組織を悪者扱いすることもない。しかし、いろいろな前提条件を見過ごすと大きな誤りとなる。ひとつは「企業」かどうかである。文字通り役所や官僚の組織であれば存続を左右する収益性にこだわる必要がないのでOKだ。ふたつめは経済の拡大局面にある場合である。量的な成長は分散型の意思決定よりも統一的な管理形態のほうが恩恵に浴する割合が高い。

ガスナー氏の行なってきた経営改革・企業風土変革の骨子は、どこの経営書にもでてきそうな内容のものばかりで、計画策定だけなら自分にもできそうな気さえする。しかし、それを全社に適用し浸透させる力というものは並大抵のものではないはずだ。彼はその力の源泉を「情熱」という言葉で表している。

情熱が人を変える。人が企業を変える。といった良好なサイクルが経営革新には必要であると思う。カッコよく言うならば「エンパワーメント」ということになろうか。エンパワーメントの連鎖が大きなうねりとなり巨象を動かす。そしてエンパワーメントを下支えするのが憲法にも似た「原則」を決め貫くことなのである。

ガスナーはIBMの新しい企業文化の基礎になる8原則を策定した。この原則がIBMの変貌振りに深く影響していることが窺える。以下にその8原則を付記する。

1)市場こそがすべての行動の背景にある原動力である
2)当社はその核心部分で品質を何よりも重視する技術企業である。
3)成功度を測る基本的な指標は顧客満足度と株主価値である
4)企業的な組織として運営し官僚主義を最小限に抑えつねに生産性に焦点をあわせる
5)戦略的ビジョンを失ってはならない
6)緊急性の考えをもって行動する
7)優秀で熱心な人材がチームとして協力しあう場合に全てが実現する
8)当社はすべての社員の必要とするものと事業を展開するすべての地域社会に敏感である

また行動様式も新しい様式に塗り替えられた。

1)製品本位 →顧客本位
2)自分の道を行く →顧客の方法に従う
3)士気向上を目標に管理する →成功を目標に管理する
4)逸話と神話に基づき決定する →事実とデータに基づき決定する
5)人間関係主導 →業績主導
6)政治的公正 →アイデアと意見の多様性
7)個人を非難 →プロセスを非難
8)見栄えの良い行動 →説明責任
9)アメリカ中心 →世界的に分担
10)ルール主導 →原則主導
11)個人を評価 →集団を評価
12)分析に完璧さを →緊急感をもって決定を
13)他社の発明無視 →学習する組織
14)すべてに予算を →優先順位を


従来の行動様式は右肩上がりでシェアも安定している巨大企業の論理であり、現在あたりまえに考えられている行動様式とは正反対のものであった。

ガスナー氏は「休みない自己改革」の章の中で以下のように述べている。
:規模が大きく、しかも動きが速い
:起業家精神があり、しかも規律がある
:科学を重視すると同時に、市場主導型である
:世界規模で知的資産を作り出せるとともにそれを個々の顧客に提供できる
:新しい企業であり、常に学び、常に変化し、常に自己変革を行なっていく
:強固で事業を絞り込んでいるが新しいアイデアをいつでも受け入れる
:官僚主義、偽善、駆け引きを嫌う。実績に報いる。
そして、何よりも活動の全てで人材と情熱を求める。

この相矛盾する言葉の両立がバランスのある良質な企業を作っていくのだ。個人レベルでも同じことがいえる。どちらかに偏った人間というのはよろしくない。
:冷徹な判断をする反面、暖かい思いやりもある人
:慎重であるが時に大胆に振舞う人
等など、良質な二面性を追求することは人間の成長と自己変革促すこととなろう。
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by orataki01 | 2005-06-25 08:52